今回は調布東山病院副院長の中村ゆかり医師から、
“臨床倫理”に関する活動のご報告です。

7月13日木曜日の夜、
調布市医師会が主催する『調布在宅ケアの輪』で、
臨床倫理について講演を行わせていただきました。

『調布在宅ケアの輪』は、西田医院の西田先生が
立ち上げられた会で、今回で79回を迎えます。
在宅に関わる多職種が集まり、様々なテーマで
勉強しています。

その中の一つとして、
調布市医師会訪問看護ステーションの
井上さん、小畑さんが、

『倫理的問題に気づき、
 倫理コンサルテーションのできる人材を
 地域で育てる』

という取り組みをされています。

昨年、臨床倫理認定士養成講座でご一緒した縁で、
今回講演する機会をいただきました。

講演会のお題は、

『患者さんご家族を幸せにする多職種の力

 ~臨床倫理への誘い~

 食べることが命を縮めるとしたら、

 私たちに一体何かできるのか?』

です。

倫理というと、道徳・法律・哲学といった
堅苦しいイメージを持ってしまいがちで、
人が集まらないのでは、と不安でしたが、
当日はなんと70名を超える方が
集まってくださいました。

誤嚥性肺炎で入院された方が、
治療を行ったにも関わらず嚥下機能が戻らず、
食事をすれば間違いなく誤嚥もしくは窒息する、
とわかった時、

1)この方につらい結果をお伝えするべきなのか

2)食事をすることを希望された時に、
  命を落とす危険があるとわかっているのに
  それを認めることができるのか

3)食事をしないことを希望された時に
  人工栄養手段を行うのか

正解のないこの3つの問いに対し、
12のグループに分かれて
倫理カンファレンスを行いました。

まず、4分割表を用いて、
医学的なこと、患者さんの意向、
ご家族の意向などについて、
情報(事実と価値)を整理し、
チームで共有しました。

次に、3つの問いに対して、
チームで倫理的推論を行いました。

倫理的推論を行う上でカギになるのが、
倫理の四原則です。

1)自律尊重原則:自律的な患者の意思を尊重せよ

2)無危害原則:患者に危害を及ぼすのを避けよ

3)善行原則:患者に利益をもたらせ

4)正義原則:利益と負担を公平に配分せよ

それぞれの問いに対する答えが、
倫理の四原則に従うのかそれとも反するのかを
考えます。

もし倫理原則が対立する場合、つまり、

 患者さんに真実を告げることは
 患者さんの自律性を尊重することだが、
 患者さんを傷つけることになる。

 患者さんに食事をしてもらうことは、
 患者さんの思いを叶えることだが、
 苦しめて命を縮めることになる。

このような場合、どうしたらいいのでしょうか?

その時は、その行為によってもたらされる
悪い結果を許容できる、相応の理由があるかを
考えます。

チーム毎にみんなで意見を出し合い、悩み、
そしてチームとして、患者さんやご家族にとって
最善となる答えを考えてくださいました。

色々な答えがありました。正解はないのです。
しかしそこには、みんなで話し合った過程と、
その答えを出した理由がありました。

宮崎大学の板井孝壱郎先生は、
倫理カンファレンスの最も大切な目的意識は、

・勝手な「想像」ではなく、根拠となる
 手掛かりから「まとめ上げていく力」

・目の前の患者さんの「人としての物語」を
 紡ぎ出そうとする「構想力」であること

・そして自分の「価値観」が
 「独善的なもの」になっていないかどうか、
 倫理的推論のプロセスをしっかり辿れるように、
 出来るだけ多くのスタッフと一緒に行うこと

と言われています。

終了後のアンケートでは、

・悩んでいたことを一人で抱え込まないで、
 みんなで話し合う機会を持とうと思った。

・関わる多くの人たちの知っていることを
 持ち寄ろう。

・倫理的な考え方、プロセスを踏むことが
 大切なことがわかった。

・自分の価値観が独善的なものになっていないか
 振り返る良い機会になった。

・選択の根拠を説明できるトレーニングがしたい。

・方針を決める際に、病院の立場、往診医の立場、
 ご家族の意向、関わるサービス担当者で
 各々の立場から大事にしていることも違い、
 意思決定に苦慮することが多く、判断の
 手掛かり、よりどころを知れたことが
 大きな成果だった、

などのご意見をいただきました。

この会のあと、調布地域で倫理の自主勉強会が
立ち上がりました。

倫理的な問題に気づくこと、みんなで情報を
整理して共有することがスタートですが、
最終的な目標は、倫理的視点に基づいて
問題点を言語化して論理的に考え、倫理的に
許容される選択肢を探索し、行動に移せるように
なることです。

ご一緒にいかがですか?