この記事は、2022年10月29日に開催した、第100回とうざん生活習慣病教室の講演をまとめたものです。

 

 

 

 

講演:熊谷真義 医師(外来部長、地域連携室副室長)
2011 年調布東山病院入職
内科総合医としてあらゆる内科、救急治療もすべて担当。
病棟でも糖尿病専門医として携わっている。

 

 

「糖尿病」ってどういう病気?

「糖」が「尿」に出る「病」気?
もとは「血糖値が高くなる病気」です。
血糖値が高くなると尿に糖が出てくるので、糖が尿に出るのは結果でしかありません。

 

血糖値って?

血糖値というのは、血液中のブドウ糖の濃さのことです。
1dL(デシリットル)の中に何mg(ミリグラム)含まれるか、mg/dL の単位で表します。
空腹時の正常値は70~110 mg/dL です。

 

 

糖尿病の歴史

紀元前1500年頃

エジプトの遺跡から発見されたパピルスに糖尿病を思わせる記載

「大量の尿を出す病気」という記述があり、これが糖尿病のことを表しているといわれています。「治療は、穀物、果物、はちみつを食べるといいですよ」とあるのが残念なところですが、こんな時代から糖尿病って知られていたんです。

紀元前600年頃

インドの医師が糖尿病の症状を詳述

「『尿が甘くなる病気』。ある種の人々の尿はハエなどの虫をおびき寄せる…」

1〜2世紀

カッパドキアの医師アレタイオスが糖尿病のことをdiabetesと命名

アレタイオスはヒポクラテスの影響を強く受けた臨床医。diabetesはサイフォンとか水が流れるという意味があります。『慢性疾患の原因と症状』という本のなかで「不思議な病気であるが、尿の中に肉や手足が溶け出てしまう。病気の経過は共通していて、腎臓と膀胱がやられ、患者は片時も尿をつくるのをやめない。まるで水道の蛇口が開いたように絶え間なくあふれ出す」。生きた心地がしない表現ですね。「病気は慢性で、形をとるまでに長い時間を取るが、いったん病気が完成すると衰弱は急速であり、死はすぐ訪れる…」

治療法がなかった時代のお話です。中国の医学書にも出てきます。消渇(しょうかつ)と表されていました。

11世紀

藤原道長 日本人の糖尿病の第1号に


日記「御堂関白記」に、「やたらと喉が渇いて水を欲しがっている。3尺先のものも見えないくらい目が悪くなっている」など、どうも糖尿病らしいという話が出てきています。

いいもの食べすぎたんでしょうね。

 

糖尿病の症状って?

喉が渇く、水をいっぱい飲んでも尿になって出てしまう、だんだん体重が落ちてくる…というのが古典的症状です。糖尿病のすごい悪い状態を放っておいて、血糖値がめちゃくちゃ高い状態が続くとこういうことになります。

こうなってから病院に来ると、「すぐ入院してください」となってしまうので、定期的に健康診断受けて、「ちょっと血糖値が高いね」と言われたときに治療を開始することをお勧めします

 

治療しなきゃいけないと言いましたけれど、今までの話で治療方法がありませんでしたよね。
なぜなかったかというと、どういう病態かというのがはっきりわかっていなかったからです。

 

 

1869年

ようやく、なぜ糖尿病が起こるのかがなんとなくわかりはじめました。膵臓にランゲルハンス島という細胞が発見され、そこが糖尿病に関係しているらしいとなりました。

1889年

犬の膵臓を全部取ったら糖尿病になったという報告も出てきました。

1901年

日本で初めて、子どもの糖尿病が報告されました。

1921年

インスリン発見

2021年が100周年だったんですね。バンティング博士という人が、膵臓から出てくるインスリンというホルモンを発見したとされています。それがどうも糖尿病のカギを握る物質だということがわかりました。

1922年

インスリンが注射になり、14歳の少年に対して使われました。発見した翌年に治療に使われるというすごい時代です。そこからどんどん製剤化されていきます。

1935年

国内でもインスリン治療が行われるように

そのときのインスリンというのは、牛や豚の膵臓を取ってそれをすりつぶし、そこからインスリンを取っていました。
けれど牛や豚が大量に必要で、さらに戦争に入り海外からも入ってこない、軍部に優先的に使われる…。日本は周りを海に囲まれていることから、ある製薬会社が魚の膵臓を取ってインスリンを作り、それが数十年間使われていました。
この時のインスリンは、打ったらすぐ効果がなくなるものでした。それを長持ちさせる中間型インスリン製剤というのが1946年に発売されました。

 

ところでインスリンって?

初めに「血糖値って何?」という話をしたときに、ブドウ糖って出てきましたよね。ブドウ糖は、人間のあらゆる細胞のエネルギーとして使われますお米、パン、パスタ…主食はみんな炭水化物です。

では炭水化物って何でしょう。炭水化物は腸の中で分解されるとみんなブドウ糖になるんです。それぐらい重要だから主食になるんです。つまりエネルギー源として一番大事なものです。

ブドウ糖が体に取り込まれると、血液の流れに乗って体の細胞に運ばれます。細胞に運ばれるとそこで膵臓からインスリンが出てきて働きます。細胞に取り込まれた糖がエネルギーに変わります。

 

車に例えると…

血糖値が高い状態が続くと、悪いタンパクとかも合体したりしてだんだん血管の壁を壊していく。次第に血管がボロボロになる。これが糖尿病の正体です。

(左)ブドウ糖の量がちょうどいい (右)ブドウ糖の量が少し多い

血管は全身にありますよね? だから糖尿病を放っておくと全身の血管がボロボロになってしまいます。つまり、

糖尿病=血管病=全身病 なのです。

 

全身と言うのは…

糖尿病性症→透析(人工腎臓):腎臓の血管がやられてしまうと、血液をきれいにする腎臓が動かなくなる。

 

糖尿病性神経障害→足切断:神経がやられて、ケガをしてもばい菌が入っても気づかず、ひどいと足が腐ってしまう。

梗塞→麻痺:脳の血管が詰まることで、半身が動かなくなってしまう。

 

糖尿病性網膜症→失明:目の奥の血管がやられる。

心筋梗塞(心臓の血管が詰まる)では亡くなることもあります。

いずれも最終段階なので、糖尿病の方がみんなこのようになるわけではありません。でもこういったことをいろいろ起こしちゃうので、糖尿病はちゃんと治療しないといけないんです。

 

…治療しなきゃいけないと言われたけれど、これまで魚由来のインスリンしかなかったですよね。そこでようやく…

1954年 飲み薬ができた

その後続々と薬ができてきます。

1978年 魚由来でない、遺伝子組み換えヒトインスリンの作成

1980年 WHOが糖尿病診断基準を作成

1981年 インスリン自己注射が保険適用となった

1986年 血糖自己測定が保険適用となった

1988年 ペン型インスリン注射器発売

2001年 速効型インスリンができた

速く効いて、速く消えていく、食事の後の血糖値を抑えるのに適したものができました
そのほか、インスリンの効きの良さを復活させてくれるチアゾリジン薬(TZD)などもできました。

 

食後血糖って?

食後に血糖値は上がります。食後の血糖値が高いほど、心臓病で亡くなってしまう可能性が上がるという調査結果も出ています。

そこで、腸の中で、炭水化物を分解する酵素の働きをブロックすることで食後の血糖上昇を抑制する薬ができてきます。

 

2015年

薬や注射が週1回ですむようになってきます。

2019年

血糖測定も変わり、リアルタイムCGMというものが保険適用になりました。専用のセンサーをつけ一定期間(2週間ほど)自動的に血糖を測り続けることができるものです。

2020年

1型糖尿病で血糖値が下がりすぎてしまうことがあります。そういうときに血糖値を上げる注射があったのですが、経鼻薬もできました。

2021年

インスリンは注射だけだったのですが、インスリンの分泌を促して血糖値を下げる経口薬も出てきました。

 

いっぱい薬が出てきたんですけど…

一番大事な治療は生活習慣です。ブドウ糖が有り余る状態にしないこと。食事のコントロール。適度な運動。お酒はほどほどにしてタバコは控える。糖尿病の治療はあくまで生活スタイルで、薬は補助薬です。

1型糖尿病(完全にインスリンが膵臓から出てこなくなる)の方はインスリン治療が必須ですが、食習慣が乱れるとどこまでも悪くなってしまいます。

 

 

 

 

Q&A

糖尿病の気があるといったとき、食べ物や運動ではなく、薬の治療になりますという指標はありますか? どのくらいの数値になったら薬になるのでしょうか?
明確な基準はないんです。例えば直近1~2カ月の血糖値ヘモグロビンA1cの平均値5点台くらいが正常。5点台後半だと注意、6・5点超えると糖尿病ですねとなったりするけれど、だから薬というわけではない。7くらいでも食事で頑張れそうだからやってみましょうという方もいたり、6点少し超えたくらいでも少し薬飲んだ方がいいんじゃないかという人もいたりさまざまです。
また、体の病態によって、無理しないと血糖値が正常値を維持できない状態だと早めに薬を飲んだ方がよかったり、ちょっと食べすぎて上がっているようであれば食事をコントロールすれば下がるから、栄養指導受けて食事内容見直してみましょうという人がいたりもします。
ずーっと、じわじわ血糖値が上がり続けるようであれば、薬をスタートしましょうということになるかと思います
糖尿病を治す薬というのはないのでしょうか?
糖尿病を〝完治〟させる薬はないんです。簡単に言うと、ダイエットと同じと思ってください。今年ダイエットに成功したからと言って、二度と太らない体になっているかというとそういうことはないですよね。油断するとまたダイエットしなきゃとなる。
生活習慣病というのはそういうことで、生活スタイルとセットになって起こってくるものなので、これを飲んだから一生大丈夫ですよということはないんです。
でもがっかりすることはないです。健康的な生活をしていれば、薬なくずっと元気でいられる人もいます。
いったん糖尿病になったら、その状態のアップダウンはあるにしても一生続くということですか?
そうですね。いまの医学レベルで言うとそうなります。
糖尿病は「治りました」という表現を使わないんです。現実的には治ってるみたいな人もいます。薬を使わずにずっと正常値を保てる人もいます。治ったと言うと、「もう大丈夫だ、暴飲暴食して…」みたいな人がいないとも限らない。そのうち目が見えなくなってしまうようなことが起こらないように「治りました」と表現しないだけ。だからがっかりしなくて大丈夫です。
根本的に治すには、遺伝子治療iPSでつくった細胞を注入すればある程度効果があったデータが出てると一部の新聞で見るんですが、その可能性はありますか?
それはあるでしょうね。今ある糖尿病の方を遺伝子治療でしっかりコントロールできるようにすることは、この先10~20年くらいでできるようになるかもしれません。
ただおそらく、それでよかったとなったとしても、生活習慣が悪くなるとまた悪くになってくる可能性はありますね

 

 

いよいよ11月14日世界糖尿病デーが近づいています。
青いライトアップを見たら、思い出してみてください。

 

 

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