整形外科部長の川口泰彦医師にお話を聞きました。(広報課)
東山会は、一般急性期病院、透析医療、予防医療、在宅医療・介護の4つの分野でサービスを提供しています。
調布東山病院:一般急性期病院、透析センター、ドック・健診センター、在宅センター
桜ヶ丘東山クリニック:人工透析専門クリニック
喜多見東山クリニック:人工透析専門クリニック
東山ドック・健診クリニック ウェルピアザ仙川:ドック・健診クリニック
「骨粗しょう症」はどういう状態のことを言うのでしょうか?
しっかりと密度がある骨に対して、隙間が増えた状態をいいます。「骨粗しょう症」の「しょう(鬆)」は、「鬆(す)が入る」という漢字と同じで、細かい隙間を表しています。
ただ、この「骨粗しょう症」という状態だけでは、「腰が痛い」といったことはあまり多くありません。本人の症状のない間に進行し、骨が弱くなって圧迫骨折をしたときに急に痛みが出てくるのが問題です。
女性に多いと聞きますが、なぜでしょうか?
特に60歳以上の女性に多いのですが、女性ホルモンが少なくなってくることによって骨からカルシウムが溶け出し、骨密度が低下していきます。
男性は、生活習慣が影響していることが多くなります。
健康診断には骨密度検査が含まれていません。特に60歳以上の女性にとっては、追加してでも診てもらった方がよいのでしょうか。
家族歴、お祖母さんやお母さんの腰が曲がっていたり、骨粗しょう症の治療をされていた方は要注意です。
また、糖尿病や肺の病気、腎機能の低下、コレステロール値が高いなど、内科的な病気と合併するともいわれています。
骨密度は高くても、骨が固い状態と、しなやかな状態とは異なります。
チョークのように折れやすい方は、“骨質が悪い”ということになります。それは鉄筋コンクリートにサビが入ったような状態です。そのサビは、体を老化させる活性酸素が先のような内科的な病気によって増えたものが骨に蓄積することでできます。
固くなりすぎて骨折してしまう人もいますので、検査するメリットはあると思います。
痛みやケガなどで受診しないと、なかなかわからないと思うのですが…
受診のきっかけ(タイミング)としては、「腰が痛い」「背が縮んだ」「背中が丸まってきた」「家族に骨粗しょう症の人がいる(遺伝)」「歩幅が狭い」「健診で骨密度が低かった」などが挙げられます。
例えば、歩幅が狭い場合、骨と一緒に筋力が落ちていることも考えられます。また同時に内臓に問題がある可能性もあります。年齢的なもの(60歳以降)や運動習慣がない方もきっかけのひとつになります。
どのような検査をするのですか?
健康診断で行う検査は、前腕やかかとの骨に超音波を当てるもので、いわゆるスクリーニング検査です。骨粗しょう症の疑いのある人を見つけるために行っています。
正確な診断をするための検査では、腰椎、大腿骨の付け根の骨密度をエックス線で測定します。この2箇所を骨折すると日常生活に大きく影響するために重視されており、正確な診断のためにこの2箇所を検査することになっています。
健診ではそこまでできないので、健診で骨密度が低かったり、気になる方はこの検査を受けたら良いかと思います。
「骨粗しょう症」と診断されたら、どのような治療をするのでしょうか?
ホルモンの影響により、骨を壊す細胞と骨を作る細胞の働きのバランスが崩れてしまうことで骨粗しょう症になります。骨を壊す細胞が元気になってしまって、骨を作っても追いつかずに骨が弱くなってしまいます。その一般的な治療として、骨を壊す細胞をおとなしくさせる薬を使います。内服で週に1回、月に1回、起床時に飲む薬が一般的です。
骨を作る細胞を元気にする薬もあります。これは注射になりますが、毎日自己注射するものから週に2回、1ヶ月に1回病院で注射する薬など、患者さんのニーズや状態に合わせていろいろな選択肢が出てきています。
血液検査で骨を作る細胞と壊す細胞の2つのバランスを調べることができます。
女性ホルモンが少なくなることで骨の密度が下がるのは必然なので、そうなる前に骨密度を高めておくことは重要です。もし骨粗しょう症になったとしても、骨密度が下がっていかないように運動や食事の指導ができればいいなと思っています。
ということは、予防するには運動と食事の習慣でしょうか?
週2回、汗をかくような運動を30分くらいするのがよいです。かかと落としのように垂直に負荷がかかるような運動が骨には効きます。歩ける人は歩くのが一番です。座って足踏みでもかまいません。椅子から立ち上がるだけでもスクワット代わりの動きになります。
ご高齢で歩きにくい場合はジムのサービスやデイサービスなどを利用してもいいかなと思います。
食事では、カルシウムも大切ですが、腸からカルシウムの吸収を助けるビタミンDも大切です。きのこ類、青魚ですね。食べ物だけで摂るのは難しいので、太陽に当たることで皮膚に作られます。1日15分ほどの日光浴も良いとされています。ただし乳製品は、とり過ぎるとコレステロールが高くなることもあるので注意が必要です。
あとはときどき検査、何かあったら早めの治療、となります。
ビタミンDやカルシウムが足りているかがわかりません。
日本人女性ではビタミンDが足りている人はほとんどいないんです。血液検査で血中のビタミンDやカルシウムを調べることができます。
40代の女性でも、骨折した骨がくっつきにくい方がいて、調べるとビタミンDが少ないことがわかった場合がありました。
ビタミンDはサプリメントもあります。ビタミンDには活性型と天然型があり、血液検査でわかるのは天然型です。ですが、薬で出るのは活性型なので、薬でビタミンDの製剤を飲んでもなかなか天然型の数値が上がらないことがあります。食事やサプリメントの方がビタミンDの数値を上げる効果はあるのではないかと言われています。
骨折を防いで健康寿命を延ばそう
背骨や大腿骨を骨折してしまうと、寝起きや移動、トイレや入浴、食事、着替えといった、日常生活に必要な最低限の動作(ADL: Activities of Daily Living)がしにくくなり、手術しても元の状態に戻すことが難しくなってきてしまいます。
例えば転んだときに手をついて、手首を骨折したとしても、そこで骨粗しょう症がみつかって、背骨や大腿骨などほかのところの骨折が予防できたらいいですね。
骨粗しょう症は生活習慣病と密接な関係があります。まずは骨密度検査を受け、その結果、骨密度が低い、運動はしているけれどなかなか数値が上がってこないという人は血液検査をして、自分に適した治療を検討するのも良いと思います。
骨粗しょう症は自覚症状がないうちに徐々に進行し、骨が弱くなり、骨折を起こしてしまうのが怖いところです。痛みが出ないうちから治療できれば、骨折も減りますし、痛みもなく日常動作ができます。
そのため、当院の整形外科は予防に向けて取り組んでいます。ぜひ一度健康診断で検査を受けたり、腰が痛いなど症状がある場合は整形外科をご受診ください。
(東山だより Vol.51(2024.10.1発行)より)
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