人工透析は、ほとんどの場合、一生つきあっていかなければならない治療です。そのためトータルの費用も膨大なものになってしまいます。
一方で、人工透析を受けるにあたって活用できる助成金も存在しています。

今回は、透析治療にかかる医療費とその助けとなる制度について取り上げます。

東山会は、一般急性期病院、人工透析、予防医療、在宅医療・介護の4つのドメインでサービスを提供しています。

調布東山病院:一般急性期病院、透析センター、ドック・健診センター、在宅センター

桜ヶ丘東山クリニック:人工透析専門クリニック

喜多見東山クリニック:人工透析専門クリニック

人工透析にかかる医療費は?

透析治療には、大きく分けて“血液透析”“腹膜透析”の2種類があります。

 

※患者さまによって薬剤の量や、検査データが異なるため紹介する金額はあくまで目安となります。

 

血液透析の医療費

血液透析の場合、1回あたり約3万円の費用がかかります。
1か月換算にすると、3万円×3×4週で約40万円、年間では約480万円かかる計算となります。

 

腹膜透析の医療費

腹膜透析の場合、頻繁に通院する必要はありません。
一方で透析液やカテーテルに1か月で約3050万円の費用がかかるため、年間では約360万~600万円の計算となります。
腹膜透析も血液透析と同様に高額の医療費が必要となります。

 

検査・診察にかかる諸費用

医療費には透析にかかる費用以外に、検査や診察にかかる費用もあります。
合併症を起こしやすいことや、透析が適切に行われているかを確認するための定期的な検査が必要です。
場合によっては、透析の原因となった病気の治療として人工透析以外の治療も同時に行う必要があります。

 

透析治療にかかる初期費用は?

腎臓病が進むと、尿(老廃物を含む)が出にくくなります。透析は、尿が出にくいことで体に溜まった水分や老廃物を除去する治療です。
透析治療を行うためには血管などの手術が必要となります。

 

人工透析を受けるように医師から診断を受けた場合でも、すぐ治療に入るわけではなく様々な準備が必要です。
例えば、血液透析の場合は
手術や血液透析導入するための入院といった初期費用が必要となります。

助成制度が適用されない範囲となり、合計ではおおよそ1530万円ほどになりますが、高額療養費制度を利用すると、自己負担を抑えることができます。

高額療養費制度や手続きについては「教えて 医療ソーシャルワーカー②気になる医療費」をご覧ください。

 

治療を行うための手術費は?(バスキュラーアクセス手術)

バスキュラーアクセスとは、動脈と静脈をつなぎ合わせて直接動脈の血を静脈に流れるようにしたものです。動脈で勢いよく流れる血液を静脈へ流すことで治療を行ううえで必要となる血液流量を確保しやすくできます

事前準備の日帰りシャント手術の場合、自己負担額は56万円、緊急を要する入院手術の場合は入院の日数により前後しますが10万円程度と考えておけばいいでしょう。最初の月は12万円かかりますが、助成制度で「マル都(東京都福祉保健局が実施している医療費助成制度のうち、対象となる疾病の助成制度の総称)」となると費用はかからなくなります

 

血液透析導入入院

初めて血液透析を行う場合、老廃物によって体調がすぐれない方が多くみられます。主に頭痛・吐き気・倦怠感といった症状が現れるので注意が必要です。

これらの不安や不測の事態に備えるため、初回の血液透析は入院して行うのが一般的になっています。これが血液透析導入入院です。また入院中に必要な薬や量を調整することもあります。入院費用としては2週間程度で20万円程度になります。

 

腹膜透析導入入院

腹膜透析療法を始めるには、まず、カテーテルと呼ばれるチューブをお腹に埋め込む手術が必要です。
すでにカテーテルが挿入されている場合は、カテーテルを外に出す手術(カテーテル出口部作成術)を行います。

そして、カテーテル挿入部の消毒やバッグ交換の手技や、緊急時の対応を習得します。
また、血液透析導入と同様に、内服薬の調整を行います。

 

医療費助成制度

ここまで説明してきたように人工透析には多大な医療費が必要となります。保険制度で自己負担額は3割となっていますが、それでも月10万円以上の出費です。そのため人工透析には以下のような公的補助制度が用意されています。

■特定疾病の医療費助成制度

「慢性腎不全」は厚生労働省の定める「特定疾病」の1つに分類されています。特定疾病の患者は加入している健康保険に申請すると「特定疾病療養受療証」の交付が受けられます。

「特定疾病療養受療証」を提示すれば、病院で支払う金額は最大で1か月に1万円(所得額によっては1か月に2万円)の窓口負担となります。また、人工透析治療を受け始めてからのみ申請が可能になるため、事前準備の段階のシャント手術には適用されません

対象

健康保険に加入されている透析患者さま全員

 

申請方法

必要書類:特定疾病認定申請書、保険証、印鑑

 

申請の流れ

  1. 特定疾病認定申請書に記入する。
  2. 医療機関にて医師の証明を受ける。
  3. 加入している保険者(国民健康保険・社会保険など)の申請窓口にて申請を行う。※届くまでに1週間〜1か月かかります。
  4. 特定疾病療養受療証が届いたら、通院している医療機関へ提示する。

 

申請窓口

加入している保険

窓口

国民健康保険

市区町村の国民健康保険課

被用者保険(社会保険)

協会けんぽの方はこちらをご覧ください

各健康保険組合、または全国健康保険協会

後期高齢者医療被保険証

市区町村の後期高齢者医療制度担当

国民健康保険高齢受給者証

市区町村の国民健康保険課

健康保険高齢受給者証

各健康保険組合、または全国健康保険組合

お住まいの地域にあわせて、調布市世田谷区(喜多見東山クリニック)、多摩市(桜ヶ丘東山クリニック)もご参照ください。

 

■障害者医療費助成制度(マル都医療券)

健康保険に加入している重度障害者の方の自己負担金を助成してくれる制度です。
ただし、入院時の食事代と室料・文書料など保険の対象とならない費用は自己負担となります。
この制度は、都道府県、市区町村によって名称・助成対象・所得制限の有無・一部負担金の限度額などが異なります

東京都医療費助成制度では、「人工透析を必要とする腎不全」があります。

人工透析を実施している慢性腎不全の患者さんに対し、人工透析の医療費の自己負担金を助成してくれる東京都独自の制度です。
医療機関窓口に健康保険証・特定疾病療養受療証をともに提示することにより、月
1万円を限度に助成してくれます。
入院時の食事療養・生活療養標準負担額と、介護保険適用のサービスを受けた時の費用は助成対象外となります。

 

申請方法

医療費助成のための医療券の発行までには、1か月程度かかります。医療券は、申請書等一式をお住まいの市区町村の窓口に提出した日から有効になりますので、人工透析の開始後速やかに申請してください

必要書類:診断書は不要です。下記5点をお住まいの市区町村の窓口に提出してください。

  • 難病医療費助成申請書兼同意書(お住まいの市区町村の窓口にあります)
  • 住民票(後期高齢者医療被保険者証を提出される場合は不要)
  • 健康保険証の写し
  • 高齢受給者証をお持ちの方は、その写し
  • 「特定疾病療養受療証」の写し

 

更新方法

更新時期に、手続きに必要な書類が届きます。お住まいの市区町村窓口で手続きが必要となります。

 

参考

東京都福祉保健局 医療費助成(人工透析)のご案内

 

■障害者自立支援医療制度

身体に障害を持っている方(身体障害者手帳を取得されている方)が、手術によって障害を軽くしたり、取り除いたりできる場合、医療費の自己負担金を軽減してくれる制度です。ただし、所得により自己負担金が発生する場合があります。また、この制度を利用するには、自立支援医療機関の指定を受けている医療機関で受診する必要があります

調布東山病院は指定自立支援医療機関(更生医療)、桜ヶ丘東山クリニックと喜多見東山クリニックは指定自立支援医療機関(育成医療・更生医療)となっています。

 

対象者

身体障害者手帳の交付を受けた方で、その障害を除去・軽減する手術などの治療により、確実な効果が期待できるもの(18歳以上)
<腎臓の場合>・・・腎臓機能障害人工透析療法、腎臓移植術(抗免疫療法を含む)

 

申請方法 ※各市区町村により異なります。

必要書類:申請書・概略書・見積り明細書等の様式は、市区町村の担当窓口にあります。

  • 自立支援医療費(更生医療)支給認定申請書
  • 自立支援医療(更生医療)意見書(概略書・見積り明細書等)
  • 身体障害者手帳の写し
  • 医療保険の加入関係を示す書類(受診者及び受診者と同一の世帯に属する方の名前が記載されている医療保険被保険者証等の写し)
  • 世帯の所得状況等が確認できる書類(市区町村民税課税・非課税証明書等)
  • 特定疾病療養受療証の写し(腎臓機能障害に対する人工透析療法の場合)

 

申請窓口

市・区にお住まいの方は、市区福祉事務所、または市区役所障害者福祉主管課
町・村にお住まいの方は、町村役場障害者福祉主管課

[公費で負担してくれるもの]

  • 透析医療に要する費用。ただし、各種医療保険等を先に適用します。
  • 介護保険法による訪問看護、訪問リハビリテーション、医療機関の通所リハビリテーション、介護療養施設サービスに要する費用(更生医療に関するものに限る)。ただし、介護保険を先に適用します。

[自己負担しなければならないもの]

医療費は原則1割負担です。入院時の食事代と室料・文書料など健康保険が使えないものの負担があります。 ただし、世帯の所得や疾病等に応じて、自己負担上限月額が設定されます。

 

参考

東京都福祉保健局 自立支援医療
東京都福祉保健局 自立支援医療(更生医療)
調布市 自立支援医療制度
世田谷区 自立支援医療(更生医療)
多摩市 自立支援医療制度(精神通院・更生医療・育成医療)

 

■心身障害者医療費助成制度(マル障)

対象者や助成の内容は地方自治体ごとに異なりますが、東京都では65歳未満で申請が可能で、医療保険の対象となる医療費、薬剤費等が助成されます。入院も助成の対象になります(入院時食事療養・生活療養標準負担額は対象外)。
医療機関で健康保険証とマル障受給者証を提示して受診します。
前項目の自立支援医療制度はマル障に優先して適用されます。対象となる方は担当窓口等へご相談ください。なお、マル障との併用は可能です。

対象者

東京都内に住所を有する方で、下記のいずれかに該当する方(一部対象除外あり)

  • 身体障害者手帳1級・2級の方(心臓・じん臓・呼吸器・ぼうこう・直腸・小腸・ヒト免疫不全ウイルスによる免疫・肝臓機能障害の内部障害については3級も含む
  • 愛の手帳1度・2度の方
  • 精神障害者保健福祉手帳1級の方

 

申請方法

住民票のある市区町村の窓口に申請し、マル障受給者証の交付を受けます。

 

更新方法

毎年9月が更新月です。更新時期に新しい受給者証が届きます。

 

参考

東京都福祉保健局 心身障害者医療費助成制度(マル障)
調布市 医療費助成制度
世田谷区 心身障害者医療費の助成
多摩市 心身障害者医療費助成制度(マル障)

 

■所得税の医療費控除

1月から12月の間で医療費が10万円以上になった場合、確定申告をすれば超過分が還付金として戻ってきます。また、10万円分の医療費についても控除の対象となるため所得税はかかりません。

 

生活費のこと

治療費と合わせて心配になるのは生活の問題です。体がつらくて働けない方、減給された方、また透析を受けるために退職し、今後の生活費のことが心配な方もいらっしゃるでしょう。生活費などを支える社会保障制度の一部を紹介いたします。

 

■障害年金

加入している年金(厚生年金、国民年金、共済年金)、障害の程度に応じて、障害年金が支給されます(年齢、初診日、保険料納付状況、障害の程度、障害認定日などの条件があります)。

人工透析を行っている場合は、申請することで、原則2級(主要症状、検査成績、日常生活状況等によってはさらに上位等級)に認定されます。

 

参考

日本年金機構 障害年金
とうざん通信 教えて 医療ソーシャルワーカー⑦障害年金

 

■健康保険の傷病手当金

業務外の病気やけがのために会社を休み、事業主から十分な報酬が受けられない場合に手当金が支給されます。 

申請方法

協会けんぽの場合:健康保険協会
組合健康保険の場合:健康保険組合
共済組合の場合:共済組合

 

参考

協会けんぽ 傷病手当金

 

■生活保護制度

収入がなくなり、生活に困ってしまう場合があります。こうしたとき、生活保護法に基づいて最低限の生活を保障し、自分の力で生活できるようになるまで援助する制度です(支給される保護費は地域や世帯の状況によって異なります)。

参考

厚生労働省 生活保護制度
東京都福祉保健局 生活保護制度とはどのような制度ですか。
調布市 生活保護
世田谷区 生活保護
多摩市 生活保護

 

暮らしを支える制度

■介護保険制度

介護保険によるサービスが必要な状況になったときに申請することができます。
介護保険サービスを利用するには、要介護認定を受ける必要があり、介護度に応じた給付額があります。

 

対象者

65歳以上、もしくは
40歳以上65歳未満で厚生労働省が定める16の特定疾病に該当し介護が必要と認定された方。この特定疾病の中に「糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症及び糖尿病性網膜症」が含まれています。

 

費用

サービス利用料の1割負担(一定以上所得者は2割〜3割)

 

申請方法・窓口

お住まいの市区町村の窓口で要介護認定(要支援認定を含む)の申請を行います。
65歳以上の方は介護保険被保険者証、 40歳以上65歳未満の方(第2号被保険者)は医療保険証が必要です。

 

参考

厚生労働省 サービス利用までの流れ
厚生労働省 サービスの内容
調布市 要介護認定・要支援認定申請書
世田谷区 介護保険の利用・申請
多摩市 要介護認定・要支援認定の手続き

 

まとめ

透析治療にかかる医療費は非常に高額ですが、医療費助成制度といった福祉制度を利用すれば、自己負担額を減らすことができます。特に最初は手間がかかりますが、これらの制度を活用して経済的な不安を少しでも和らげ、安心して透析治療を続けられる環境を整えていきましょう。

 

2022.12.17 世田谷区、多摩市の関連リンクを追加
2023.12.12 特定疾病療養受領証(多摩市)のリンク修正
2024.3.21 調布市の関連リンク修正