将来の変化に備え、前もって思いを分かり合っていくこと

みなさんは、ご自分の最期、ご家族の最期をどのように迎えるか考えたことがありますか?

    どこで迎えるのか?

    誰と迎えるのか?

    どんな医療やケアを受けたいのか?

    自分が決められなくなったら、誰に決めてほしいのか?

 そして、そのことをどなたかに伝えているでしょうか?

 

たまたまこのページをご覧になった方は、なんでこんなことを聞くのだろうと思われたかもしれません。
健康であることは、もちろん大切なことです。
しかし、医学がどんなに進歩しても、この世に生を受けたからには、“死”は誰にでも例外なく訪れます。
ご自分が望む最期を迎えるためにはどうしたらいいのか? 

今日は、看護師Aさんとそのお母さんと一緒に、人生の最終段階の医療やケアについて考えてみましょう。

 

東山会は、一般急性期病院、人工透析、予防医療、在宅医療・介護の4つのドメインでサービスを提供しています。

調布東山病院:一般急性期病院、透析センター、ドック・健診センター、在宅センター

桜ヶ丘東山クリニック:人工透析専門クリニック

喜多見東山クリニック:人工透析専門クリニック

 

人生の航路(あなたらしい船の旅):東山会の取り組み

 

 

看護師A:お母さんは、人生の終わりが近づいた時にどのような医療やケアを受けたいか考えたことある?

母:あるわよ。

看護師A:そうなんだ、どんな風に考えているの?

母:あなたがまだ、小さかったころは、どんなにつらくても可能な限りの治療をすべてしてほしかった。何が何でも生きることが目標だった。でも今は、つらくなくて穏やかに過ごせる方法があれば、それをしてほしいなあ。

看護師A:どうしてそう思うの?

母:子供が小さければ、その子が育つまではつらくても頑張らないと。今は元気に長生きできるならいいけど、つらいのは嫌だわ。回復する可能性がないなら、無理な治療はしないで、自然に穏やかに家族とお別れする時間が欲しいもの。

看護師A:お母さんの気持ちはわかるけど、そんなこと言わないで、私たちのために長生きしてよ。

母:ありがとう、でも私の人生だからね。

看護師A:お母さんは、今病院に通っているでしょ。そのこと先生に伝えている?

母:伝えてないわよ。

看護師A:なぜ?

母:え、だって、そんな話をする機会ないわよ。

看護師A:私、この前勉強したんだけど、平成29年の厚労省の意識調査では、人生の最終段階における医療や療養について考えたことがある人は、一般国民の約60%、医療・介護スタッフの約80%なんですって。でも、そのことを家族や医療関係者と詳しく話し合っている人は、一般国民の2.7%、医療・介護スタッフの約7%とわずかなのよ。話し合ったことがない理由を尋ねてみると、お母さんと同じように、一般国民も医療・介護スタッフも、「話し合うきっかけがないから」が約60%だったのよ。

母:なるほどね、きっかけないわよね。

看護師A:もし伝えていなくても、その時考えて伝えることができれば問題ないけれど、人生の終末期には約70%の人が意思決定できなくなるんですって。

母:70%?

看護師A:そうなの、残念だけど、高齢になると理解力思考力が低下するでしょ。中には認知症になる方もいるわ。それに急に病状が変化して考えることができなくなるんですって。

母:もし誰かに伝えておかなければ、、、

看護師A:そう、今日、お母さんは私に伝えてくれたから、自分で考えることができなくなっても、お母さんの気持ちを私が先生たちに伝えることができるけど。もし誰にも伝えておかなかったら、自分の思うような死に方ができないってことなの。

母:それは大変。

看護師A:その糸口になるのが、アドバンス・ケア・プランニングなのよ。

母:アドバンス・ケア・プランニング?

看護師A:アドバンス・ケア・プランニングというのは、日本語に直すと、前もって医療やケアについて計画を立てようってこと。日本医師会では、『将来の変化に備え、将来の医療およびケアについて、患者さんを主体に、そのご家族や近しい人、医療、ケアチームが繰り返し話し合いを行い、患者さんの意思決定を支援するプロセスのこと』と定義しているのよ。

母:なるほど、自分で考えることができなくなる前に、家族や医療、ケアチームの人と話し合いをすることなのね。それは安心だわ。

看護師A:そうでしょう。

母:でも、自分が将来どうなるかわからないのに、何を話し合えばいいの?

看護師A:そうだよね、どうなるかわからないものね。アドバンス・ケア・プランニングでは、いくつかのポイントがあるのよ。
一つは、自分の気持ちを伝えられなくなったら誰に決めてほしいか? そして自分がこれまでの人生で大事にしてきたことは何か? 
自分に何が起きるかわからなくても、それは、伝えられるでしょう。

母:そうね、私はあなたかな、そして私の大事なこと、それは家族かな。

看護師A:もう一つ大切なことは、自分にどんなことが起きるかわかった時にも、どんな医療やケアを受けるか受けないか答えを出すことではないの。なぜ、そう思うのかっていう理由が大切なのよ。お母さん、さっき理由を話してくれたでしょ。その理由の中に、その人の人生観や価値観があるのよ。

母:でも、その時そう思っても、気が変わったらどうするの?

看護師A:悩んでも迷ってもいいのよ。お母さんはこれまで、生きてきた中で、何度も悩んで色々な選択をしてきたでしょう。人生の最期はもっと悩むんじゃないかな? 今は穏やかになんて言ってても、いざとなったら長生きを希望するかもしれないよね。だから、悩んだり迷ったり、気が変わったりしたら何度も話し合えばいいのよ。

母:できれば、死ぬ時のことなんて考えたくない。でも自分の思いが伝わらず、自分の望む最期を迎えられなかったらもっと困る。あなたの言うように、なぜそう思うのかと何度も繰り返して考える、それを伝えていくことで、実は、最期のことだけじゃなく、どう生きるか、自分の人生を考えることになるような気がしてきたわ。

看護師A:そうだね、私だけでなく、何かの折に、かかりつけの先生や看護師さんと、ケアマネージャーさんやヘルパーさんにも話しかけてみるといいかもね。お母さんが話をする時、私も一緒にいるよ。まずは、伝える、それを受け止める、一緒に考える、悩む、繰り返す、それがアドバンス・ケア・プランニングなんだよ。

 

さて、看護師Aさんとお母さんの会話はいかがでしたでしょうか。

私たち地域医療・ケアスタッフは、その方の生きてこられた歴史、人生観や価値観を理解しながら、人生の最期までその人らしさを尊重した医療・ケアを提供したいと考えています。

ご自分が望む最期を迎えるために、ご自分の中で、ご家族と、そして地域の方々や医療・介護者と共に一緒に考え語ることから始めてみませんか?

 

「広報誌 東山だより(2019.5)」より転載、改訂